1.クラシカルナソロジー時代
クラシカルナソロジーを語るとき、外すことが出来ない2つのキーワードがあります。それは、中心位咬合と犬歯誘導咬合です。この2つは、この理論の根幹をなし現在も一部の先生方の間で広く信じられている技術です。
以下にウィキペディアよりナソロジーの概略を参考にさせて頂きました。
1920年代に、アメリカのMcCollumとStallardによって創設された。ナソロジーの理論は、有歯顎を対象として考え出されものである。従来の下顎運動の研究は、下顎運動を精密に記録することなく行われていたため、それらのデータは漠然とした意味しかもたなかった。1921年、McCollumは、ターミナル・ヒンジ・アキシスの存在を実証し、下顎運動の測定に明確な原点が設定されることになった。1926年、McCollumは、Stallard、Stuartらをメンバーとしてカルフォルニア・ナソロジカル・ソサエティーを設立したナソロジーのオーソドックスな処置法の特徴は、以下の通りである。
1.ターミナル・ヒンジ・アキシス(下図)を実測して、これを咬合の基準とする。
2.パントグラフを使って下顎運動の測定をする。
3.ナソロジカル・インスツルメントを使用して下顎運動を再現する。
4.中心位を機能的咬合位として与える。
5.全口腔を同時に修復し常にフル・マウス・リコンストラクションを治療の終着点と考える。
6.上下顎を同時に修復しファンクション・ワキシング法による1歯対1歯カスプ・フォッサの咬合形式を与える。
7.オルガニック・オクルージョンを理想的な咬合とする。
8.金合金で鋳造した暫間補綴物を長期間仮着して、治療効果を確認する。
9.セメント合着にさきがけて、最終補綴物をリマウントして咬合を修正する。
ナソロジーが最大に評価されることは、臨床にしっかりと結びついた理論であり、またその臨床成績が優れていることである。しかし、その反面、その術式は複雑で一般性に乏しく、不経済で社会性に欠けると批判されている。(以上、Wikipediaより参照)
上記引用では、かなり複雑なように感じますが要点となるところは、かなり単純です。
それは、「中心位咬合」と「犬歯誘導咬合」の2点が要点となります。
①中心位咬合
中心位 (下顎を最後方位置に押し込んだ位置)に下顎を移動させることです。
②犬歯誘導咬合
下顎が中心位から移動すると犬歯以外の歯はただちに離れるということ。全く生理学的背景があるわけでなく、ただ奥歯が離れればよいという条件だけです。
この理論による治療では下顎を後ろに押し込むため、患者様が壁を背にして術者が力ずくで「エイヤー」と押すことなど、本当に真面目に行われてきました。
実際、この理論を教えていた日本のある教育機関では、35年前の金額で年間100万円以上の講習会費用を支払って、受講生同士一日中お互いに下顎を後方に押しやる練習を行っていました。今思えば、滑稽極まりない話ですよね。
この理論による治療が行われたことで、多くの患者様に「中心位病」という医原性疾患(医療行為が原因の疾患)が発生しました。普通に考えればわかることですが、力ずくで下顎を後方に押しやって、「この位置で噛んでくれ!!」と言われても生理学的に説明のできない位置に体が適応するわけがありません。このような背景で、この理論を採用するドクターの数は激減していきました。今はほんの一握りの信者さんたちの存在さえ疑わしいほど衰退しました。
この理論のマイナスのところばかり述べましたが、私はこの理論が後世に残した功績は大きかったと思っています。それは咬合をメカニカルに捉えた初めての理論的咬合概念だったからです。それまでは、経験的に術者の「感」で行われてきた治療を初めて科学的(?)に解説し、客観性を持たせたからです。この時代に作られた計測機器は、今でも役に立つこともあります。咬合学の基礎を作ったと言ってよいでしょう。