ドクターインタビュー
吉見歯科医院の院長のインタビュー
医院コンセプトを教えてください
治療に関しては二つあります。以前私は歯科医療に対する夢は持てていませんでしたが、問題は山積みでした。その問題を打ち破る概念は何かないかと模索していた時に1999年に神奈川歯科大学成長発達歯科学講座の佐藤貞雄教授と出会いました。そして今までの問題点が雲が晴れるようにクリアになったのです。成長・発達の概念と力の概念を学ばせていただきました。
それは今までにない新しいコンセプトでした。一つは力。一つはバクテリアの問題なんですね。バクテリアというのは長い間歯医者がブラッシングしてくださいと多くの患者様方に言ってきたと思うんですよ。確かに一部の患者様はブラッシングをしたことによって、虫歯や歯槽膿漏の予防につながったと思います。ただ100%ではないんです。現在日本でも、1週間2週間歯をみがかない人っていないと思うんですよ。ほとんどの皆様は1日1回~3回くらいは必ずみがくと思います。たけど歯槽膿漏にもなれば虫歯にもなる。なんでだろうって思いませんか?だからその辺のところを今までの長い間、歯医者や一般の患者様方が信じきっていたんです。虫歯菌をなくせば全て解決するんだ。歯槽膿漏菌を全てなくしてしまえば歯槽膿漏はなくなってしまうんだというようなところですね。
その辺のところに概念的な欠陥というか、後から補充しておかなければならないものがあるんだということなんです。
そこで考えられたのが、メカニカルフォースの問題ということです。メカニカルフォースの問題とは平たく言うと「噛む力」の問題なんです。昼間は意識がありますからそんなに強い力では噛みません。ですが、夜間や就寝後に歯ぎしりをします人間は。ほとんどの人が歯ぎしりをしているわけなんです。私は絶対歯ぎしりをしていませんよ。という患者様でも実は歯ぎしりをしています。1,2)それは必要があるから歯ぎしりをしているんです。3)
音がならないと歯ぎしりをしていないと多くの患者様方がそのように思っていらっしゃるのですが、精密に測定してみると皆様100%に近い方々が歯ぎしりをしていらっしゃいます。その歯ぎしりの力が弱い間はいいんです。ところが時々もの凄い力で噛むときがあるんです。どのくらいの力かというと昼間の100%の力で噛んだ力を分母に持ってきて、分子に夜間の力を持ってくると200~300%くらいの凄い力で噛む時もあります。毎日ではありません。そのように噛むときもあるわけなんです。そのときに歯が凄い力で押されて歯ぐきが痛んだりとか、歯そのものが結晶体でできているわけですから亀裂が入ったりするんです。そこの部分を解決しないで、ただバクテリアのコントロール、ブラッシングをしてくださいと言っても問題は解決しなということなんですね。ですからメカニカルフォースの解決とバクテリアの解決を二つ同時進行で解決しなければならないということなんです。
1)「実は歯ぎしりをしています。」それを裏付ける論文は以下です。
吉見 英広:睡眠ブラキシズムのパターンおよび筋活動に関する研究
(神奈川歯学,43-2,144~153,2008) ① ②
2)吉見 英広:Identification of the occurrence and pattern of masseter muscle activities during sleep using EMG and accelerometer systems
(Head & Face Medicine)
3)「必要があるから歯ぎしりしているんです。」-(脳のストレス応答に対するbitingの影響I の関与、神奈川歯学 38(4): 174-176, 2003.)
メカニカルフォースとバクテリアの問題を解決すると体にどのようなメリットがありますか?
メカニカルフォースとバクテリアがコントロールできることにより、虫歯や歯槽膿漏が段々となくなってくるんです。実は歯ぎしりの機能というものを深いところまで研究していくと、ただ噛んでいるだけではないんですよ。実は色々な調節をしているんです。もっともファンクションの中で大切なことはストレスマネージメントということなんです。夜間にギュッと噛むことによって昼間蓄積されたストレスを解放しているんですね。
そこがもっとも大きなファンクションだと思います。その部分がきちんと機能してくれれば、現在は非常にストレスフルな世の中ですけども一晩寝てしまえば昼間心に蓄積された大きなストレスはなくなるということになります。朝起きたときには、前の晩なんとなく悩んでいた気持ちが朝起きたときにはリセットされて起きることができるということなんです。そういった生活面でプラスの部分もかなり大きくなる、実現できるということなんです。
歯ぎしりは一般的に悪いイメージがありますが、なぜ悪いととらえられているのですか?
なぜ世の中で歯ぎしりが悪いというとらえ方をされているかの理由はですね、過剰な歯ぎしりをした場合には、歯自体が割れるときもあるんです。その一点だけを見ると歯ぎしりをなくしてしまった方がいいんじゃないかというふうに考えるわけです。確かに歯が割れて抜かなくてはいけないシチュエーションだけを見ますと、歯ぎしりをなくした方がいいと思われるときもあります。ところが大学の学術的研究の中で分かってきたことは、噛む行為が実際脳に蓄積されているストレス性物質を減少させるというところにつながっていくわけなんです。
ですからそのストレス性物質の減少、もっとも進んだ研究ファンクショナルMRIを使った研究4)では脳の海馬周辺が活性化するということなんですね。それはどういうことかというと記憶力がましてくるということです。ですからただ単にそしゃくできるということは当たり前であって、審美的に美しい口元であることが当たり前ということ。ただその先にもっと深いファンクションがあり、人間のクオリティ・オブ・ライフの部分に深くかかわった部位に非常に歯並び、歯ぎしりの機能というものが大きく関わっているということなんです。
4)「ファンクショナルMRIを使った研究」-(不正咬合による不定愁訴の神経機構:fMRIによる研究、Journal of Oral Biosciences 49(suppl): 106-106, 2007)
では歯ぎしりを治す必要がないのではないかというお考えの方にはどのようなお話をされますか?
歯ぎしりの存在のプラス部分を少しお話させていただきました。ではマイナスの部分はないのか5)というと、マイナスの部分もおおいにあります。歯ぎしりが過剰に発生しますと歯がだめになります。歯槽膿漏も激しく進行するということもお話しました。プラス顎の関節に対して、歯の並びの支えがきちんとできていないと関節に強い力が加わってくるようになります。関節に強い力が加わりますと、顎関節症という現象が出てきます。顎関節症というのはどんなものかご存知ない方もいらっしゃいますので、簡単に説明します。
例えば急に口が開かなくなったりとか、痛くて耐えられないとか、口を開けようとすると引っかかって開けられない。むりやり開けようとするとゴキっと音がなる。そのような症状が出ることを「顎関節症」といいます。それは歯が上と下の顎に支えとなってはじめて顎の関節がセーフティーに保たれるわけなんですね。その保たれる組織である歯や歯ぐきがしっかりとした健全な状態を維持できなければ、全て顎の関節にメカニカル的なストレスが加わっていくことにつながります。顎の関節に対して過剰な力が加わり続けると、顎の関節が痛くて機能できないということにつながっていくんです。
ですから歯ぎしりがあるのは当然のことなんですが、過剰な場合には歯を早期に喪失してしまう可能性が非常に高くなります。そうすると関節の機能が正常に営めなくなる可能性も出てくるわけなんです。ですから歯ぎしりが過剰な場合は減少させてあげる必要性があるんです。なくしてしまうわけではなく、減少させてあげる必要があるということです。そうすると結論として歯も虫歯や歯槽膿漏になりづらい、そしてストレスマネージメントができ、顎の状態も健康な状態を維持できるということが実現できるんです。
5)「マイナスの部分はないのか」-(ブラキシズムの臨床診断および歯科疾患との関連、神奈川歯学 39(4): 183-187, 2004)
先生の所には顎関節症で来院される患者様が多くいらっしゃるということですが、どのような症状またはどのような年代の方が多くいらっしゃるのでしょうか?
どの年代が多いとかは全く特定できません。一般的に言うと若い女性が多いと言われていますが、私の所に来られる患者様は症状のあるなしに関わらず、顎のデータを取らせていただいています。ただ写真を撮るという単純なものではなく、三次元的な動きのある500ヘルツで最小単位が100分の1ミリメートルの精度の高いもので関節の動きのデータを取ります。そういった精密な顎の測定機器で分析していきますと症状があるとかないとかという次元ではなく、自覚症状がなくても関節そのものの機能に問題がある方が非常に多いんですね。ほとんどの患者様は正常とは言えない状態です。例えば義歯の治療をする場合、噛めないですからあまり顎の関節に負担がかからないんですね。ところがその噛み合わせの位置のまま、良く噛める義歯を作ると今度はギュッと噛めるようになるので顎の関節に負担がかかるようになってくるのです。そうすると噛めるけど顎の関節が痛いというような症状が出てきます。結果的に義歯を最初から作り直しになるというわけです。ですから年齢層とか歯があるとかないとか関係なく、あらゆる年齢層において男女関係なく顎の関節に問題が存在していると言えます。
もちろん症状があって来られる方もたくさんいらっしゃいます。その方々も口が開かないとか、顎を動かしづらいとか、音がなる、関節が痛い、耳が痛い、偏頭痛が取れないといった諸々の症状が出るかたもいらっしゃいます。そういった症状があった場合、普通は「スプリント療法」というマウスピースのようなものを噛んでいただくことがあります。確かに効果はありますけどマウスピースを外すと元に戻ってしまいます。外さないで一生過ごすかというと、それは非現実的な話になってしまいます。ですからご自身の歯で新しい噛み合わせを作るんです。また義歯やインプラントで正しい噛み合わせを作ってあげるということにつながっていくわけなんですね。
スプリント療法以外で顎関節症を治すためにはどうしたいいのですか?
スプリント療法以外で顎関節症を治していく、また根本的な治療をしていく方法として、やはり精密な骨格の測定と顎の関節のアクショングラフのデータなどを使って、顎の関節が本来あるべきポジションに持っていくことです。スプリントでも持っていけるんですよ。ただスプリントを外してしまうと、また間違ったポジションに戻ってしまいます。ですから正しいポジションに噛み合わせを再構成します。もう一回作り直しをするんですね。それは義歯でもやります。そしてインプラントでもできるんです。一本も歯を失っていない方であっても矯正という手段を通じて正しい噛み合わせを作り直す再構成ができます。スプリントは顎関節症の治療法というよりも顎関節症の症状がどのように変化していくかという一つの診断ツールにすぎないということは強く言っておきたいと思います。スプリントで症状が良くなったらそれで終わりではなく、その先にご自身の歯で、義歯で、インプラントで正しい噛み合わせに再構成するということ。そこが大切なんです。
顎関節症で来られる方はどういう方が多いのですか?
それはバラエティに富んでいると思います。ただ一つ言えることは先程お話しました通りプラキシズム、歯ぎしりの活動性の高いエリアにいらっしゃる方。例えば高ストレスにさらされている経営者層や管理職の方々ですよね。おそらく誰に相談することもなく、孤軍奮闘されて一人で頭を悩まされている方ですよね。そういった方は奥様にも悩みを打ち明けることができずに一人で悩んでいらっしゃるんですね。そういったことから夜間歯ぎしりのアクティビティ活動性が高くなるんです。そしてそこに骨格的な問題または歯並びの問題があった場合には、顎関節にダイレクトに圧力が加わって関節の痛みが発生することがあります。ですからそういった方々がもし少しでも噛み合わせを治せば、関節の痛みから解放されて快適な生活を送っていただけるのではないかと思います。
噛み合わせ本来の機能であるストレスマネージメントの機能を十分に発揮していただいて、これからの知識創造社会を作っていただける多くの人材がたくさんいらっしゃると思います。そういった方々に噛み合わせをしっかりと治して日本の大きな未来を作っていっていただきたいと私は思っております。
最近はどういった患者様が多いですか?
やはりアクティビティの高い、社会の中心になろうとしている方々ですね。そういう方々はほとんどストレスフルだと思うんですよ。もう診療チェアに座るとストンと眠ってしまうくらい疲労されているんですよね。当院に来られたときにはある意味休むみたいな雰囲気ですね。歯医者というと痛いというイメージがありますが、歯医者にはストレスを解放しにいくという感覚で来ていただきたいと思います。ですからクラシック音楽も流してますし、アロマも焚いて心の安らぎを感得していただいてお帰りいただく。社会の中で戦っていらっしゃる方々に安らぎのひとときを持っていただきたいと思います。そして明日からまた力いっぱい社会の中で戦っていただけるように、我々は100%、120%準備を万端にしてお待ちしております。
女性の患者様も多いと伺いましたが、どういった傾向の患者様がいらっしゃいますか?
女性の方々も大変多くいらっしゃいます。美しくなりたいということなんですよね。もとは歯が痛いとか歯がないから入れてほしいとか、そういった希望の患者様でいらっしゃるんですけど、やはりその根本的に美しさの追及という部分に関してはどの年代の方も美しくなりたいという思いは変わらないんですね。
そういう方々にはもちろん機能を十分に回復していただいてストレスマネージメントの噛み合わせが効くという噛み合わせにして当然なんですけれども、より上の段階ですね。美の追求。そこを患者様と構築していく。
例えば前歯1本作るとしても、ただ技工士さんに発注してできたものをセメントでつけて終わりということではないんです。その人それぞれの生活の中でより多くのエネルギー感のある口元になっていきたいというのが皆様女性の方々の根本的なニーズなんですよ。
そこにお応えするためには仮歯といえども、馬鹿にできません。当院では材料をものすごいたくさん用意してあります。一色じゃないんです。何十種類も色を選択できるようになっています。そしてその仮歯の形だけではなくて色も、例えば若い方々ですと非常に透明感のある色をされているんです。そして歯の先端などもガラスの透けるような透明感があるわけです。だんだんお年を召されていきますと逆に歯の表面がツルツルになっていくんです。年齢とともに歯に亀裂が入っていくのが普通ですので、周辺の歯と調和するように亀裂の表現まで行うのです。それはその人の口元のアクセントになるんですね。非常に自然感のある口元になります。ですから50代、60代の方に20代くらいの前歯をポンといれるとすごく変なんです。やはり年相応の年輪の積まれた歯の造形というものがあるんです。ただそれは一回色見を見て終わりということはできないんです。ですから何回も何回も来ていただいて、前歯の造形を鏡で見ていただいて「こうですか?」「ああですか?」「こうしたいですか?」と何回も質問しますね。「好き勝手なことを言ってください。」「なんでもいいです。」「僕がそれを表現しますから。」と話しその通りやってきました。それでそれをベースにして本物を作っていくんです。
そういったことから当院は「仮歯」という名前ではないんです。「プロビジョナルレストレーション」といいます。「プロビ」というのは、本物の前のほぼ本物の機能と形を備えた仮の歯ということで、プロビジョナルというんですけどね。そういったものをある程度長期にわたって装着していただいて、普段の生活の中でこれはいいというレベルまで患者様とディスカッションをしながら作り上げていきます。時間をかけて持ち上げていくということなんです。そしてはじめて本物の歯が入ります。どう美しくなりたいということを患者様が望まれる美しさを究極まで追求していく治療方針です。
活動履歴
北米神経学学会SfN(Society for Neuroscience)
アメリカ・ワシントンDCで開催されている北米神経学学会SfN(Society for Neuroscience)に参加してきました。全米最大の規模の神経学会です。「咬合様式を変化させたときの自律神経応答」に関して調査、発表させて頂きました。
King George's Medical University 歯学部補綴科 創立50週年記念式典
King George's Medical University(キング・ジョージ・メディカル・ユニバーシティ) 歯学部補綴科 創立50週年記念式典にゲストスピーカーとして招待されました。
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