0.はじめに
私は歯科の特有の咬合治療の変遷に関して私自身の多くの先生方との出会いを織り交ぜながら少々お話させて頂きます。
私は大学在学中 (1982年入学)より咬合治療に興味を持っていました。当時歯科界はクラシックナソロジー咬合学が歯科の世界を席巻していたように見えました。歯科咬合を初めてメカニカルに捉え精密に上下咬合関係を再現する初めての試みは、純粋な歯科大生の心を掴んではなしませんでした。
歯科大5年6年のときには、咬合学の討論で明け暮れた感がありました。お酒の席まで、咬合学の書籍を持ち込んで終電近くまでディスカッションを数え切れぬほど繰り返しました。
しかし、卒業直後、一般臨床の場に出て感じたことは、正直大きな「落胆と失望」の他にありませんでした。初心者の私の眼から見ても全体に精度が低く、咬合治療そのものに全員の歯科医が迷っているようにみえました。実は、この現状は今も変わっていません。
なぜ、歯科の世界に基準となる治療方針が少ないのか?
それは、「歯科医師が不勉強でも全く困らない環境にあったから」ということです。
私の大学入学当初の歯科医師の初任給は平均で70万円でした。今の価値にすると軽く100万円はこえるでしょう。なぜそんなことが起きたのでしょうか?
何の訓練をしなくても、全く治療自体の知識自体を理解しなくても、保険の評価点数は同じなのです。治療自体が精密にできていようと、物凄くいい加減にしようと、極端な話、治療行為自体行ってなくても、ボールペンで書けば点数が加算されていくのです。
基本的にその状況は今も変わっていません。勉強せずとも金が稼げるわけですから、殆どの歯科医が余り勉強しないのです。
大きな期待を持って世の中に出たとき、あまりの次元の低さに職業を辞めてしまおうかと、真剣に考えたほどです。しかし、その後、数は少ないのですが、尊敬に値する国内外の研究者、臨床医の先生方との多くの出会いが在って今現在に至ります。
これから、その時代の最先端の技術を誇り現在も価値ある研究と臨床テクニックの話と将来に向けての計画を少々書かせて頂きます。
<今後の予定・目次>
1.クラシックナソロジー時代
2.ドーソンテクニック時代
3.納富哲夫テクニック時代
4.佐藤貞夫、ルドルフ・スラビチェックテクニック時代
5.睡眠ブラキシズム研究時代
6.自律神経研究時代
7.脳内シグナルコントロール時代
8.組織再生増殖シグナルコントロール時代
9.次世代への伝承